東京駅は、毎日数えきれないほどの人が行き交う“現役の駅”でありながら、
同時に、日本を代表する名建築として高く評価され続けています。
なぜ、100年以上前に建てられた建築が、
現代の高層ビルに囲まれてもなお、美しさを失わないのでしょうか。
この章では、東京駅の建築美に焦点を当て、
その「色あせない理由」をひとつずつ紐解いていきます。
設計者・辰野金吾が東京駅に込めた思想
東京駅の設計を手がけたのは、辰野金吾。
日本銀行本店や奈良ホテルなど、数々の名建築を残した、日本近代建築の父と呼ばれる人物です。
辰野金吾の建築の特徴は、西洋建築をそのまま輸入するのではなく、
日本の風土や感覚に合わせて再構成する点にありました。
東京駅にも、その思想は色濃く表れています。
重厚で威厳がありながら、どこか柔らかく、人を拒まない佇まい。
それは「国家の建築」でありながら、「人のための建築」でもあることを示しています。
赤レンガ駅舎が与える「安心感」の正体
東京駅を象徴する赤レンガ。
この素材の選択は、見た目の美しさだけが理由ではありません。
レンガは、耐久性に優れ、火災にも強い素材です。
さらに、赤レンガは暖色系であり、人に安心感や温かみを与えます。
国家の玄関口として威厳を示しつつも、
訪れる人を緊張させすぎない――
その絶妙なバランスが、赤レンガという素材によって生み出されています。
左右対称が生む「駅らしさ」
東京駅の正面に立つと、自然と視線が中央に集まります。
それは、左右対称(シンメトリー)構造によるものです。
左右対称の建築は、秩序・安定・信頼を象徴します。
とくに国家的な建築において、この構造は重要な意味を持ちます。
また、東京駅の正面軸は、皇居へと続く行幸通りと一直線につながっています。
この配置により、東京駅は「都市の中心」としての役割を視覚的にも担っているのです。
ドーム天井に込められた装飾美
丸の内駅舎の南北に設けられたドーム天井は、
東京駅の建築美を語るうえで欠かせない存在です。
ドーム構造は、古代ローマ建築に由来し、
「権威」や「永続性」を象徴する形とされています。
天井に施された装飾やレリーフは、
ただ豪華なだけでなく、細部まで計算された配置になっています。
中でも興味深いのが、干支をモチーフにしたレリーフです。
すべてを揃えず、あえて一部を省略することで、
格式の中に“遊び”や“余白”を残しています。
「機能美」としての東京駅
どれほど美しくても、駅である以上、使いにくければ意味がありません。
東京駅の建築美は、機能美として成立しています。
広いコンコース、自然に流れる人の動線、
無意識のうちに進むべき方向が分かる構造。
観光地でありながら、毎日の通勤・通学を支える――
その両立こそが、東京駅の真価です。
地下に隠された現代建築技術
東京駅の外観は、100年以上前の姿そのものですが、
地下には最新の建築技術が詰まっています。
復原工事の際、駅舎の地下には大規模な免震構造が導入されました。
巨大な建物全体が揺れを逃がす仕組みです。
見えない部分にこそ、現代の技術と知恵が注ぎ込まれている――
それもまた、東京駅の建築美の一部と言えるでしょう。
復原工事が生んだ「新しい価値」
2007年から2012年にかけて行われた丸の内駅舎の復原工事。
この工事は、単なる修理ではありませんでした。
「壊して新しくする」のではなく、
「元の姿に戻す」という選択。
それは、効率よりも記憶と文化を重視する決断だったのです。
外観は創建当時、内部は現代基準。
過去と未来をつなぐ建築として、東京駅は新たな価値を手に入れました。

東京駅が「完成し続ける建築」である理由
多くの建築は、完成した瞬間がピークです。
しかし、東京駅は違います。
使われ、守られ、評価されることで、
時間そのものが価値を育ててきた建築です。
文化財でありながら、現役のインフラ。
この矛盾を成立させている点に、東京駅の特別さがあります。
まとめ|東京駅の美は「時間」が育てた
東京駅の建築美は、
設計者の思想、素材の選択、構造の工夫、
そして100年以上使われ続けた時間によって育まれてきました。
それは、完成して終わる美ではなく、
生き続ける美です。
次に東京駅を訪れるときは、
ぜひ少し足を止めて、その建築を“見る”時間を取ってみてください。
きっと、これまでとは違う東京駅の姿が見えてくるはずです。
あわせて読みたい
通過するだけでは、見えてこない東京駅があります。
立ち止まった人だけが気づける、駅の素顔をご案内します。
▶︎ 東京駅「知られざる場所」案内

